漫画ヤヌスの鏡より
幼少期から厳しい祖母の折檻を受け多重人格になった女子高生、裕美
裕美に対するおばあちゃんの扱いが酷く叔母が裕美を不憫に思い
お義母さん行き過ぎだと夫裕美の叔父(戸籍上は父だが叔父)に相談する
「裕美のことは母さんに任せておけばいい。僕らの子じゃないし裕美には悪いが、あれのおかげで僕らは随分助かっているよ。母さんは常に不満の種を見つける人だから裕美がいなきゃ攻撃の矛先は全部こっちにくる」
誰かを攻撃せずにいられない人
この方、自己愛性人格障害です。慢性的に満たされず常に誰かを攻撃しなければいられない性質です。その激しい気性のため実の息子からも疎まれて避けられています。裕美はおばあちゃんのヒステリーの生贄にされてしまったわけです
ヤヌスの鏡(原説)
「あら、これは変わってるわね。顔が2つある」父の店でローマのヤヌス神の硬貨に興味を示すタカお嬢様
タカさんの父親は成金ですが母親は公家出身です。幼少期から気位の高い母親に「公家の者として恥じぬように」と特権階級の矜持とプライドを叩き込まれて育てられてきました。美しいが気位が高過ぎる氷のような近寄り難いお嬢様に成長する
1. 特権意識、万能感
タカの腹違いの娘水鏡は母の死後 父の実家に引き取られる。正妻と姉にも召使いにも冷遇される水鏡、姉の婚約者の優しい気遣いが唯一の救いになる
父の決めた婚約者の寛二(父の部下)にさえ冷淡で上から目線なタカお嬢様。まるで社長と平社員のような関係だ。常にタカお嬢様に気をつかう寛二は優しく、しおらしい水鏡に惹かれる。水鏡も優しい寛二に密かに慕うようになる
父は2つに割ったヤヌス神のペンダントを右ヤヌスをタカに左ヤヌスを水鏡にプレゼントする
誰がこんなものほしいものか!というような感じで、誰も見ていないとこで右ペンダントを投げ捨てるタカ
水鏡は父の取引先のお金持ちの男性と縁談を決められる。結婚相手が60歳と知らされた水鏡
「私が16だからひっくり返せば同じですね・・・」
父が自分を引き取った理由は、父としての愛情ではなく、娘を自分のビジネスに利用する道具にするためと理解した水鏡
両親の愛情、綺麗な着物とお洋服、優しくて素敵な婚約者全てを持っている姉タカを羨む水鏡。姉妹でありながら全く違う境遇
左ヤヌスのペンダントを首にかけ鏡に自分の姿を映せばタカの持っている右ヤヌスに見える
「鏡にうつせば同じものなのに・・・」
仕事中うとうと眠ってしまった寛二に上着を掛けようとするタカ「ハッ」として頰を紅潮させ「フン」と掛けるのを辞めてしまう
頰を紅潮された表情から本当はタカさん寛二さんに好意を持っていたようです。寛二さん男前で、賢く、誠実で優しいですから気に入らない訳ありません
公家の世界は感情をだしてはいけないのか?
公家のおなごが庶民を好きになるなんて・・・本当はタカお嬢様は気が強いが優しい女性なんです。華族としてのプライドから自分の気持ちに素直になれない不器用な女性なのだ
父が急死する。母から公家とお見合いをさせられるタカお嬢様。見合い相手の公家の男性の気どった、お見合い相手の傲慢な態度と見て冷めていくタカ。タカの脳裏には 一生懸命働く寛二の姿が思い浮かぶ
「帰ります」
「この夜道をお嬢様のような若い娘さんが
「ちょうどいい運動になります」
「そちらから出ては鬼門です」
「わたくしはこちらから出たいんです。わたしに流れている半分の血は俗物である父から受け継いだもの。小沢商会の財力は魅力ありまして?」
実家に戻るタカ
水鏡と寛二の密会と接吻を目撃。激昂し「けだもの!」水鏡を平手打ち
寛二はタカに土下座をして
「一緒にさせてください」と懇願するもタカ
「父の遺志は尊重せねばなりません。あなたの不義が理由でうちの会社があなたの村の生糸を買わなくなったら、生糸しかないあの村はどうなってしまうかしら?」
寛二を亡き父親の恩義で寛二を縛り付け、脅し水鏡との愛を裂く
後日
水鏡が自殺をはかる
「どこまで恥をかかせればいいのですか」
「人を好きになるのが恥ですか?」
「惚れたはれたとわめくのは、けじめを通すこともできない我儘もの。畜生と同じです」
2.冷淡、共感性の欠如
長きにわたりお家存続のため政略結婚を繰り返した公家の世界では恋愛結婚はないだろう。タカお嬢様にとって「人に惚れる」ことは動物のすることという認識しかないみたいです
「どうして死なせてくれなかったんですか?あなたは何でも思い通りになる人なのに。せめて私の願いを聞いてくれても」
「私は一度だって物事が自分の思い通りになったことなんてありません」
「フフ・・そうね。あなたは自分が何を望んでいるかわからない方ですものね。自分が望んでるものも解らない人に思い通りになにもないもの」水鏡は嘲笑う
「お黙りなさい!」
タカが寛二を愛してるのにそれをタカ本人が気づいていないことを
何不自由ない裕福な家に育ち、綺麗な着物と洋服、親の愛情を受け、最愛の男性を手に入れてもまだまだ満たされてないタカの虚無感をも見抜いていた
3.虚無感
「私がなぜ死のうと思ったか解ります?」
「聞きたくもありません」
「どんなに頼んでも、あなたが許してくれるような人ではないと私はわかっていたわ。でもあの時、あの人は両手をついて"一緒にさせてください"って頼んだわ。私その言葉だけで嬉しかったの。
そのまま死んでもいいくらい嬉しかったの幸せだったわ
でも、もう自殺なんかしない
私の死でもし寛二さんが自分を責めるような
そんなことがあってはいけないから」
結ばれなくとも寛二と永遠の愛を誓いあい満ち足りた水鏡。まるで悟りを開き、タカには手の届かない高みの世界から慈愛の眼差しで哀れな姉を観る水鏡
タカはその後寛二と結婚する。夫 寛二の心は水鏡を思い続けるだろう。タカは何をしても満たされず、常に不満な種を見つけては誰かを当たり散らしていたのだろう
4.過干渉
自己愛の強い女性が母親になると過干渉で子供を自分の意のままに支配しようとする母親になりやすい
エリートに育てあげた息子には母の干渉に辟易され距離を置かれた。娘 ゆきこを良い家に嫁がせようとするも 厳しい母の要求と束縛に反発され家出。娘は未婚の母になった後不慮の事故で亡くなる
仮に娘が良い家にお嫁に行ってもタカさんは
何一つ思いどうりになったことはないと言い張るだろう
夫から愛されず、自分の子供も思い通りにならなかったタカ
毒親のタカさん自分の孫を素敵なお嫁さんにすべく、今度こそはと自分のお人形さんにし自我を与えず完全支配しようとする
5.支配欲
かつては家柄も良く裕福で美くしく万能感に満ち満ちていたタカさん。自分に能力、知識があることを誇示するために家族を全てを支配したい。毒親から毒婆さんに転身。娘 ゆきこを追い詰めたのはタカさん自身だが全く反省はない
6.ターゲットの無価値化
障子の桟を指でなぞって埃を見つける姑のように粗探しをしてターゲットを常にけなす
「お前は母親が母親だから」と何度も貶め、罪悪感を抱かせ自信を喪失させて支配するため
子供は逃げれない。孫の唯一の気晴らしは、鏡に映る自分の姿をユミと名付け友達にして遊ぶことだった
お婆ちゃんの望む良い子の裕美でなく
自由奔放に生きる悪い子のユミ
「私はアンタみたいなおばあちゃんの人形じゃないのよ。あたしはあたしのやりたいようにやるのよ」
レッテル効果
人格が形成されていない子供にお前は○○だとレッテルを貼れば本当に○○な人間に成長する
タカは
「お前なんか生まれなければ良かった」
「お前の父親は鬼のような男。お前は鬼の血をひいている」
「お前の母親はふしだらな夜遊び好きの女で悪い男に騙された。私の言うことを聞かなければ母親みたいになる」
と悪いレッテルを貼り続け脅し孫を支配する
予言の成就
ユミはお婆ちゃんの言葉通り、夜遊び好きの殺人さえ厭わない悪鬼のような人間になった。孫を「悪鬼」になるよう呪いをかけたのはタカ自身だがそれも全て孫のせいにする
7.責任転嫁
完璧な自分像を守るため。自分自身の悪を否認して相手に投影し責任転嫁する。あくまでも相手に罪悪感を抱かせて責め続けるためだ。自己愛性人格障害には底知れぬ怖さがある
ユミは祖母の虐待によって心が破壊され「悪」の人格サイコパスになった
スリ
おやじ狩り
強盗
邪魔者を消すためなら
騙す
陥れる
殺人も厭わない
狡猾で罪悪感は皆無
常に「退屈」を感じている
カミソリ女(スケバン)にケンカを売られたユミ。腕をカミソリで切られても全く動じずねじ伏せる
カミソリ女は刃物を向けてもひるまず 深く腕を切られも笑う不気味なユミに言い様のない恐怖を感じる
1.ゾッとさせる異様さと目つき
「アイツ刃をむけてもよけもしなかった。切りつけても笑ってやがった。かなり深く切れてたのに
大概の人間は刃物を見れば固くなるのに切られれば一瞬ひるむはずなのに・・・アイツは相手にしない方がいい」
サイコパスと関われば人生、財産、命さえ奪われる。そう、絶対に関わってはいけない
2.関わるものは必ず不幸になる
「あたしは怖いとか、痛いとか、罪悪感とかそんなもの持ってないわ
だけど こうは考えられないの?
あたしのような人間じゃ社会と摩擦を起こすから
あたしの方が本物でヒロミは世間向けの仮面だったって」
3.サイコパスは痛みを感じない
故に他人の痛みがわからない故に悪行に躊躇がなく、罪悪感も全くない。裕美の方は常に怯え普通に痛みを感じる
善良な脅える人格と
攻撃する人格(サイコパス)
対極の2つの人格を持つ主人公
なぜか裕美は水鏡さんにそっくり。それ故にタカがイビリたくなるのか
ユミの表情はタカさんの若い時の氷の美貌に似ている
ユミと裕美どちらが本当の人格か?人格は統合するのか?
宮脇先生作品は最後は明らかにしない読者に考えさせるスタイルです。ユミの飛び降りから20年後世界の「ヤヌスの鏡メタモルフォーゼ」につながる
17歳以前の記憶がないひろみという女性と謎の美女が出て来るお話
ヤヌスの鏡 メタモルフォセス (クイーンズコミックスDIGITAL)
- 作者: 宮脇明子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/07/06
- メディア: Kindle版
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7月から実写ドラマでもリメイクします。令和版「ヤヌスの鏡」楽しみですね
ラスト
初めて自分の孫に反撃される
「おばあちゃんは嘘つきよ!」
8.事実を自分に都合よく捻じ曲げる
自分の悪を都合よく捻じ曲げて他人に責任転嫁してることを孫に指摘されたタカ
9.自分の非を認めない
孫の初めての反抗に激怒してを挙げようとするも心臓疾患で倒れ緊急搬送され入院するタカ
攻撃力の強い人が得るものとは
破壊
何も得るものはない
娘と孫に良い家柄の人と幸せな結婚をして欲しかっただけなのに
妹への敗北感
娘は不慮の事故死
孫は心が破壊された
タカの心は常に虚無
全く満たされない
病室で眠るタカ
誰かの気配がする
誰かい?
枕もとに座っている 今は亡き 16歳の水鏡の幻影が見える
お迎えか
水鏡
また私を嘲笑いに来たのかい?
私はあなたが恩知らずのひどい女だと今でも思ってますよ
そう
一生私は
何一つ自分の思い通りにならなかったわ
何一つとしてね